「タコピーの原罪」を読み進める中で、登場人物である雲母坂まりなに対して「嫌い」という感情を抱いた方も多いのではないでしょうか。彼女の過激ないじめの理由や、悲惨な家庭環境を知ることで、まりなへの評価はクズなのか、それともかわいそうなのか、読者の間で大きく好き嫌いが分かれています。
まりなはなぜ死亡し、タイムリープを経て高校生として再登場したのでしょうか。本記事では、まりなの母親や父との関係からなる心理構造を分析し、なぜ読者が彼女に共感したり、反発したりするのかを深く掘り下げていきます。
この記事のポイント
- 「タコピーの原罪」のまりなが嫌われる具体的な理由がわかる
- まりなの行動の裏にある家庭環境や心理構造を理解できる
- まりなに対する多様な読者評価や共感の可能性について知れる
- 物語の時系列やまりなの死亡、再登場の謎が整理できる
目次
「タコピーの原罪」でまりなが嫌いと言われる理由とは?

『タコピーの原罪』を読んで、登場人物・雲母坂まりなの行動に強い不快感や「嫌い」という感情を抱いた方は多いのではないでしょうか。主人公のしずかを執拗に追い詰めるいじめっ子としての姿は、物語の序盤で彼女を悪役だと感じるのに十分な理由となります。
しかし、物語を読み進めるにつれて、彼女の背景にある悲惨な家庭環境や、母親からの愛情不足が明らかになり、「ただの悪役では片付けられない」「むしろ、かわいそうなのでは?」と感じた人も少なくないはずです。
この記事では、なぜまりなは「嫌い」と言われるのか、その理由を彼女の行動と心理構造の両面から深掘りし、多くの読者が彼女に抱く複雑な感情の正体に迫ります。

いじめという最も分かりやすいまりな嫌いの理由

雲母坂まりなが多くの読者から「嫌い」という感情を抱かれる最も直接的な理由は、主人公・久世しずかに対する執拗で陰湿ないじめにあります。物語の序盤から、まりなは中心的な加害者として描かれ、その行動は多くの読者に強烈な不快感を与えました。
具体的には、しずかの持ち物を隠したり、机に落書きをしたりする行為に留まりません。クラスメイトを巻き込んで笑いものにし、「寄生虫」「アバズレの娘」といった小学生とは思えない暴言を浴びせ続けます。これらの行為は、単なる子供のいたずらの域を完全に超えており、明確な悪意を持ってしずかの心身を追い詰めるものとして描写されています。
さらに、しずかの唯一の心の支えであった愛犬・チャッピーを保健所送りにするため、故意に自分を噛ませるという計画的な行動に出るシーンは、まりなの冷酷さを際立たせる象徴的な出来事です。このように、読者が感情移入するしずかを徹底的に痛めつける加害者としての側面が、まりなを嫌いだと感じる大きな要因となっています。
まりなはクズでかわいそうという二面性

まりなの行動は「クズ」と断じられても仕方がないほどに残酷ですが、物語が進むにつれて彼女の置かれた過酷な状況が明らかになり、「かわいそう」という同情的な見方も生まれます。この加害者でありながら被害者でもあるという二面性が、まりなというキャラクターを非常に複雑な存在にしています。
前述の通り、しずかへのいじめは決して許されるものではありません。しかし、その行動の裏には、父親の不倫と母親からの虐待という、彼女自身ではどうすることもできない家庭の問題が存在します。母親からの愛情を得られず、ストレスの捌け口として暴力を受ける日々は、彼女の心を深く歪ませました。
このため、読者の間では「まりなの行動は許せないが、そうなってしまった背景を考えると一概に責められない」という意見も多く見られます。「クズ」な行動と「かわいそう」な境遇、この両方を抱えているからこそ、まりなを単純な悪役として片付けられず、評価が大きく分かれるのです。
結果として、彼女の行動を「自己責任」と捉えるか、「環境が生んだ悲劇」と捉えるかで、まりなへの印象は180度変わってきます。

物語を動かしたまりなの衝撃的な死亡

『タコピーの原罪』の物語において、読者に最も大きな衝撃を与えた出来事の一つが、まりなの死亡です。しかも、彼女を殺害したのは、しずかを幸せにするために地球に来たはずのタコピーでした。
しずかを守りたい一心で、タコピーが振り回したハッピー道具「ハッピーカメラ」がまりなに直撃し、彼女は即死してしまいます。この展開は、善意の存在であるはずのタコピーが殺人を犯すという、物語の根幹を揺るがすターニングポイントとなります。この事件こそが、作品タイトルにもあるタコピーの「原罪」の始まりなのです。
まりなの死は、単にショッキングなだけでなく、物語の構造を大きく変化させました。タコピーは罪を隠すためにまりなに変身して生活を始め、しずかと東くんは死体の隠蔽に協力します。
この一連の流れは、登場人物たちの罪の意識を増幅させ、物語をより深刻で取り返しのつかない方向へと進めていきました。まりなの死は、彼女自身の退場だけでなく、残された者たちに癒えない傷と罪を背負わせる、極めて重要な出来事だったと言えます。
タイムリープ後に登場するまりな(高校生)

小学生編でタコピーに殺害されたはずのまりなが、物語の後半で高校生として再登場するシーンは、多くの読者を混乱させました。これは単純に「生き返った」わけではなく、『タコピーの原罪』が持つ複雑なタイムリープ構造を明らかにする、極めて重要な演出です。
結論から言うと、物語の真の始まりは、2022年の高校生のまりながタコピーと出会う場面からスタートしています。この時間軸でのまりなは、母親からの虐待で頬に痛々しい傷を負い、恋人だった東くんは転校してきたしずかに心変わりするなど、八方塞がりの状況に置かれていました。
絶望の淵で、まりなが「小学生の時に久世しずかを殺しておけばよかった」と呟いたこと。この言葉を「願い」と捉えたタコピーは、彼女をハッピーにするため、ハッピー道具「ハッピー大時計」を使い、2016年の過去へと飛んだのです。
つまり、読者が最初に見ていた物語は、未来のまりなを救うために改変された過去の世界線だったのです。しかし、過去へ飛んだタコピーは記憶を失い、最初に出会ったしずかを助けようとした結果、本来救うべきだったまりなを殺害してしまうという、あまりにも皮肉な悲劇が起こりました。
この高校生編の存在は、単なるサプライズ展開ではありません。まりなというキャラクターが抱える悲劇の根深さと、タコピーの「原罪」がどこから始まったのかを読者に突きつけ、物語全体に圧倒的な奥行きを与える役割を果たしています。
読者の間で大きく分かれるまりなの好き嫌い

これまで見てきたように、雲母坂まりなは非常に多面的なキャラクターであり、その評価は読者の間で大きく好き嫌いが分かれています。彼女を「嫌い」だと感じる読者は、主にしずかへの悪質なイジメという加害者の側面に注目します。その行動は同情の余地がなく、物語における明確な悪役として認識されるでしょう。
一方で、まりなの行動の背景にある劣悪な家庭環境や、母親からの虐待、そして最終的に誰にも救われずに絶望していく姿に心を痛め、「嫌いになれない」「むしろ可哀想だ」と感じる読者も少なくありません。まりなの攻撃性は、愛情に飢えた子供の歪んだSOSのようにも見えるためです。
このように、まりなをどの側面から見るかによって、彼女への感情は「嫌悪」から「同情」へと大きく振れます。この評価の二極化こそが、まりなというキャラクターが多くの読者の心に強烈な印象を残し、議論を呼び続ける理由と言えるでしょう。
『タコピーの原罪』まりなを嫌いになれない背景

まりなの過激ないじめや言動は、多くの読者から「嫌い」という感情を引き起こすのに十分なものです。しかし、なぜ一部の読者は彼女を一方的に断罪できず、「嫌いになれない」「むしろ同情してしまう」と感じるのでしょうか。
その答えは、彼女の攻撃性の根源となっている、あまりにも過酷な家庭環境と、そこから形成された歪んだ心理構造に隠されています。彼女が抱える闇は、決して生まれつきのものではありませんでした。
ここでは、まりなという一人の少女が抱えていた孤独と痛みを、彼女の家庭や心理といった深層的な側面から紐解いていきます。
劣悪だったまりなの家庭環境を解説

まりなの攻撃的な性格や行動を理解する上で、彼女の家庭環境は避けて通れない要素です。一見すると裕福な家庭に見えますが、その内情は崩壊しており、まりなは心安らぐ場所のない日々を送っていました。
夫婦喧嘩は絶えず、父親は家庭を顧みず、母親は精神的に不安定になっていきます。家の中は父親のモラハラ発言と、母親のヒステリックな言動で満たされており、まりなはその中で常に緊張を強いられていました。
夏場でも長袖を着ている描写は、母親からの身体的虐待による痣を隠すためではないかと示唆されており、彼女が日常的に暴力に晒されていた可能性を物語っています。
このような環境で育った子どもが、他者に対して健全なコミュニケーションを築くことは非常に困難です。まりなが学校で見せる支配的な態度は、家庭で感じている無力感の裏返しであり、自分の居場所を確保するための必死の生存戦略だったのかもしれません。
まりなと母親、そして父との歪な関係

まりなの性格を歪ませ、しずかへの攻撃に駆り立てた最大の要因は、彼女と両親との間にあった歪な関係性に他なりません。彼女の家庭は、父親の不倫をきっかけに完全に崩壊しており、まりなはその中で愛情も安らぎも得られずにいました。
家庭を顧みない父の存在
まりなの父親は、しずかの母親が働く水商売のお店に入れあげ、家庭を顧みなくなります。稼いだお金を家庭に入れず、妻に対しては「寄生虫」といったモラハラ発言を繰り返すなど、夫としても父親としても無責任な姿が描かれています。この父親の裏切り行為が、家庭崩壊の直接的な引き金となりました。
精神的に追い詰められた母の暴力
夫の裏切りによって精神的に追い詰められた母親は、その怒りとストレスの矛先を、あろうことか娘であるまりなへと向けます。彼女はまりなに「自分の味方でいること」を一方的に強要し、意に沿わなければ日常的に暴力を振るう「毒親」へと変貌してしまいました。まりなが夏場でも長袖を着ているのは、この母親からの虐待による痣を隠すためだと強く示唆されています。
この家庭の最も悲劇的な点は、「暴力の連鎖」が生まれていることです。母親は夫から受けた心の傷を娘への暴力で埋め、まりなはその理不尽な暴力を、家庭を壊した原因(だと信じる)しずかへのいじめで発散する。この負のサイクルが、まりなを「被害者」でありながら「加害者」でもあるという、複雑な立場に追い込んだのです。
このように、父からはネグレクト、母からは虐待という、両親の双方から適切な愛情を与えられなかったことが、まりなの心を深く傷つけました。他者を攻撃することでしか自己を肯定できない彼女の言動は、この歪な親子関係から生まれた必然的な悲劇だったと言えるでしょう。
承認欲求から見るまりなの心理構造

まりなの行動の根底には、極めて強い「承認欲求」が存在します。家庭内で母親から認められず、愛されている実感を得られない彼女は、その渇望を学校という別の社会で満たそうとします。
彼女がクラスのリーダー的な地位に固執し、しずかをいじめることで優位性を示そうとするのは、「自分は価値のある存在だ」と他者に認めさせたいという心理の表れです。
いじめは、彼女にとって自分の存在価値を確認するための、最も手軽で歪んだ手段でした。しずかを支配することで、家庭では得られない「自分が必要とされている感覚」や「コントロールできる感覚」を味わっていたと考えられます。
心理学でいう「置き換え」の一種とも言えます。つまり、母親に向けられない怒りや不満を、より弱い立場であるしずかにぶつけることで、心のバランスを保とうとしていたのです。この満たされない承認欲求と孤独な叫びが、彼女の攻撃性の源泉にあると理解すると、まりなへの見方は単なる「いじめっ子」から、より複雑で悲劇的な存在へと変わってきます。
なぜ一部の読者はまりなに共感するのか

まりなの行動は決して許されるものではありませんが、それでも一部の読者が彼女に共感や同情を寄せるのは、彼女が抱える苦しみが、多くの人々が持つ普遍的な感情と重なる部分があるからです。
例えば、「親に認められたい」という願いや、「誰かに必要とされたい」という孤独感、そして「自分の居場所が欲しい」という切実な思いは、程度の差こそあれ、誰もが一度は経験したことのある感情ではないでしょうか。まりなは、そうした普遍的な苦しみを、極端で攻撃的な形でしか表現できなかった不器用な子どもとして描かれています。
読者は、まりなの姿に「もし自分が同じ環境だったら」と自らを重ね合わせ、彼女の行動の裏にある「声なき叫び」を感じ取ります。だからこそ、彼女を一方的に断罪するのではなく、その痛みに寄り添いたいという気持ちが芽生えるのです。まりなへの共感は、彼女の行動そのものではなく、その根底にある救われなかった子どもの孤独に向けられていると言えるでしょう。
物語の結末とまりなというキャラクター

『タコピーの原罪』の最終話で、タコピーは自らを犠牲にして時間を巻き戻し、すべての悲劇が起こる前の時点からやり直すことを選びます。その結果、改変された世界では、まりなとしずかは互いの家庭環境の辛さを理解し合い、二人で買い物に行くほどの友人関係を築いていました。
この結末は、まりなというキャラクターが、決して根っからの悪人ではなく、環境と状況次第で他者と分かり合える可能性を持っていたことを示唆しています。彼女の顔には母親につけられたであろう傷跡が残っており、家庭環境が根本的に改善されたわけではないことが伺えます。しかし、しずかという理解者を得たことで、彼女は以前のように他者を攻撃する必要がなくなったのです。
最終的に、まりなは「ただのいじめっ子」という記号ではなく、弱さも脆さも抱えた一人の人間として描かれました。彼女の物語は、環境が人に与える影響の大きさと、それでも人と人が「おはなし」をすることの大切さを、私たちに強く教えてくれます。
「タコピーの原罪」でまりなを嫌いか考える

- まりなが嫌われる主な理由はいじめという直接的な加害行為にある
- 暴言や暴力、計画的な嫌がらせは読者に強い不快感を与える
- 一方で、まりなの背景には劣悪な家庭環境が存在する
- 父の不倫と母からの虐待が彼女の心を歪ませた
- このため「クズ」と「かわいそう」という二つの評価が共存する
- 物語中盤でまりなはタコピーに殺害されるという衝撃的な展開を迎える
- この死亡事件はタコピーの「原罪」の始まりとなる
- 高校生としての再登場は、物語が複雑なタイムリープ構造を持つことを示す
- 真の物語は、高校生のまりながタコピーと出会うところから始まる
- まりなの行動の根底には満たされない強い承認欲求がある
- 家庭で得られない自己肯定感を学校でのいじめることで補っていた
- 読者がまりなに共感するのは、その孤独や承認欲求に普遍性があるため
- 最終的に改変された世界では、まりなとしずかは友人関係を築く
- これは、彼女が環境次第で変われる可能性を持っていたことを示唆している
- まりなを嫌いと感じるか、同情するかは読者の視点によって大きく異なる