スパイファミリーの舞台・国モデルを徹底解説!時代背景も

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こんにちは。アニクロニクル 運営者の朝日 とうまです。

SPY×FAMILY』、本当に面白いですよね。シリアスなスパイ任務と、仮初めの家族が織りなす温かいコメディのバランスが絶妙で、毎回引き込まれます。この物語に没入するうち、「スパイファミリーの舞台になっている国って、いったいどこがモデルなんだろう?」と疑問に思った方も多いんじゃないでしょうか。

オスタニアやウェスタリスという国名、首都バーリントの風景、アーニャが通うイーデン校の雰囲気、そしてSSSのような秘密警察の存在。これらの要素が、特定の時代背景や実在した国をモデルにしているのは明らかですよね。

この背景を知ることで、ロイドの緊張感やヨルさんが抱える社会的なプレッシャーの理由が、より深く理解できるような気がします。物語の舞台設定は、キャラクターたちの感情や行動の「土台」そのものですから。

この記事では、『SPY×FAMILY』の舞台となっている国のモデルや、その詳細な時代背景について、私なりに分析した情報をまとめていきます。この世界観の解像度が上がることで、フォージャー家の物語がさらに愛おしく感じられるかもしれません。

この記事のポイント

  • 『SPY×FAMILY』の主な舞台となる国のモデル
  • オスタニアとウェスタリスが持つ二重の背景
  • 物語の具体的な時代設定がいつなのか
  • なぜその設定が物語を深くするのか
目次

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スパイファミリーの舞台、国モデルを解説

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『SPY×FAMILY』って、どうしてあんなに惹きつけられるんでしょうか。 秘密警察(SSS)が暗躍する息苦しいほどの緊張感と、フォージャー家が食卓を囲むときのあの温かさ。この「ギャップ」こそが、物語の心臓部ですよね。

そして、あの独特な空気感は、すべて「舞台設定」によって設計されています。 オスタニアとウェスタリス。二つを隔てる壁。 「スパイファミリーの舞台となっている国は、いったいどこがモデルなんだろう?」 その答えを知ったとき、ロイドが背負う重圧も、ヨルさんが守りたい日常も、その意味がまったく違って見えてくるんです。

この記事では、単なるモデル地の解説ではなく、なぜその「国」と「時代」が選ばれたのか、そして、それがフォージャー家の“かりそめの関係”にどう作用しているのかを、一緒に読み解いていきたいと思います。

舞台のモデルはドイツとイギリスの融合

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まず、この記事で一番大事な大前提からお話しさせてください。『SPY×FAMILY』の舞台である「オスタニア」や「ウェスタリス」は、「特定の単一の国」をモデルにしているわけではない、というのが私の分析です。

作者の遠藤達哉先生も明言はされていませんが、作中のあらゆる描写—街並み、政治体制、文化、そしてあのイーデン校の雰囲気—をパズルのように組み立てていくと、ある答えが浮かび上がってきます。

それは、この世界が「ドイツ」と「イギリス」という、二つの国の要素を意図的に融合させた「ハイブリッド(複合)モデル」で作られている、ということです。

「え、ドイツとイギリス? 全然違う国じゃない?」と思うかもしれません。そうなんです。違うからこそ、この組み合わせが『SPY×FAMILY』の物語に不可欠なんだと私は思います。この二つの国は、物語の中で明確に「役割分担」をしているんです。

『SPY×FAMILY』の世界を構成する二重モデル

  • 政治・社会体制のモデル → 冷戦下の「東西ドイツ」
    国家の分断、秘密警察SSSの暗躍、スパイたちの熾烈な情報戦…。物語の根幹をなすシリアスでピリピリとした緊張感は、明確に「ドイツ」の歴史(特に冷戦時代)から来ています。

  • 文化・教育・美意識のモデル → 伝統的な「イギリス」
    一方で、アーニャが通うイーデン校の荘厳な建築様式、エリート主義的な階級社会の雰囲気、伝統を重んじる美意識は、「イギリス」(特にその歴史的なパブリックスクール文化)がモデルになっています。

この役割分担、すごく巧みだと思いませんか?

もし、物語のすべてが冷戦下の東ドイツだけで構成されていたら、息苦しすぎて、フォージャー家のあの温かいコメディは生まれにくかったかもしれません。逆に、すべてがイギリスのエリート校の話だったら、ロイドが命がけで平和を守る「スパイ」である必要性が薄れてしまいます。

「ドイツ的なシリアスさ」(国家の存亡)と「イギリス的な様式美」(伝統と階級、そしてそこから生まれる学園コメディ)。

この相反するように見える二つの要素を一つの世界に同居させることで、『SPY×FAMILY』は”シリアスなスパイもの”と”心温まるホームコメディ”という、二つの顔を完璧に行き来できる。この絶妙なトーンの切り替えこそが、私たちが本作にどうしようもなく惹きつけられる理由の一つなんじゃないかなと思います。

この後のセクションで、それぞれのモデルについて、もっと具体的に見ていきますね。

オスタニアは東ドイツがモデルか

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物語の主な舞台であり、フォージャー家が暮らす東国「オスタニア」。ここは、かつて存在した「東ドイツ(ドイツ民主共和国、GDR)」が色濃くモデルになっていると考えられます。

東ドイツは、第二次世界大戦後、ソビエト連邦が率いる社会主義陣営(東側)に属していました。作中のオスタニアが、西国ウェスタリスと激しく対立し、情報戦を繰り広げている様子は、まさにこの冷戦時代の構図そのものですね。

この「東ドイツ」という設定は、特にヨルさんの行動原理に深く関わっています。

息苦しい社会が生んだ「偽装結婚」の動機

作中でヨルさんが「27歳で独身」だと同僚からスパイの嫌疑をかけられそうになり、慌ててロイドとの偽装結婚を受け入れるシーンがありました。

これは、当時の東ドイツの社会情勢を反映していると言われています。東ドイツでは、国民同士の相互監視や密告が奨励され、共同体から逸脱した行動(例えば、適齢期を過ぎても結婚しない、党の集会に参加しないなど)をとる個人は「危険思想の持ち主」として秘密警察にマークされる可能性があったそうです。

ヨルさんの焦りは、「スパイだと疑われたくない」という個人的な保身だけでなく、「この息苦しい社会で“普通”でいなければならない」という強烈な心理的圧迫から来ている。そう考えると、あの突飛な偽装結婚という選択にも、切実なリアリティが宿ってきます。

ウェスタリスは西ドイツがモデル

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一方で、主人公であるロイド・フォージャー(黄昏)が所属する西国「ウェスタリス」。ここは当然、オスタニア(東ドイツ)と対比される形で、「西ドイツ(ドイツ連邦共和国、FRG)」がモデルになっていると考えられますね。

現実の西ドイツは、第二次世界大戦後、アメリカ、イギリス、フランスの共同統治下に置かれ、マーシャル・プランなどによる支援も受けて急速な経済復興を遂げた、資本主義陣営(西側)の国です。

作中でも、ウェスタリスはオスタニア側から「西の資本主義者ども」といった描かれ方をすることがあり、その対立構造は明らかです。ロイドが所属する西国情報局「WISE(ワイズ)」は、この西側諸国の平和と安定を守るために活動する組織なんですね。

ここで重要なのは、ロイドの任務「オペレーション〈梟〉(ストリクス)」の最終目的です。

それは「侵略」や「体制転覆」ではなく、あくまで「東西間の戦争を回避し、平和を維持すること」にあります。

これは、ウェスタリス側(少なくともWISE)は、オスタニアのタカ派(国家統一党のデズモンドなど)が引き起こそうとする「戦争の再発」を何よりも恐れており、「現状維持」としての平和を強く望んでいることを示しています。

この「国家が二つに分断されている」という設定。これが単なる背景に留まらないのが『SPY×FAMILY』のすごいところだと私は思います。

この「分断」こそが、ロイドに「子どもが泣かない世界」という強烈な動機を与え、スパイという道を選ばせた元凶です。そして、その分断された敵国(オスタニア)の最重要人物に近づくために、「家族を作る」という、スパイとしてはあまりにも非合理で、人間的すぎる無茶なミッションを彼に課すわけです。

すべては、この「分断」から始まっている。そう考えると、ウェスタリスという国の存在は、ロイド・フォージャーという男の行動原理そのものを生み出した、物語の「すべての始まりの場所」と言えるかもしれませんね。

首都バーリントはベルリンがモデル

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オスタニアの首都「バーリント(Berlint)」は、その名前の響きからもわかる通り、まず間違いなく「ベルリン(Berlin)」がモデルになっていますよね。ここは、この物語のあらゆる緊張感の「震源地」とも言える場所です。

ただ、単に「ベルリンがモデル」と言うだけでは、この舞台設定のすごさを見誤ってしまうかもしれません。現実の歴史において、ベルリンは冷戦時代、世界で最も特殊で危険な都市でした。

なぜなら、オスタニアのモデルである東ドイツの領内にありながら、そのベルリン市自体がさらに「西ベルリン(西側)」と「東ベルリン(東側)」に分割統治されていたからです。

地図で見ると、東ドイツという海に、西ベルリンという「西側の孤島」が浮かんでいるような状態。まさに冷戦の最前線であり、両陣営のスパイが暗躍する場所として、これ以上の舞台はありません。

分断の象徴「ベルリンの壁」

作中でも東西を隔てる「壁」の存在がたびたび示唆されますが、これは1961年に東ドイツ政府によって建設された「ベルリンの壁」を強く想起させます。多くの人々が自由を求めて西側へ脱出しようとし、その壁は多くの悲劇を生みました。

この「壁」は、単なる物理的な障害物ではありません。それは家族や恋人を引き裂き、イデオロギーの違いを決定的に可視化した「分断の象徴」そのものです。ロイドが守ろうとする「平和」が、いかに脆いものの上にあるかを示す背景となっています。

街並みのハイブリッド性

ここで面白いのが、バーリントの「ビジュアル」です。政治的な背景は間違いなく分断時代のベルリンなんですが、作中で描かれる美しい街並みや市庁舎の広場などは、ドイツの別の都市、例えばフランクフルトにある「レーマー広場」など、中世以来の歴史を持つ西ドイツ側の美しい建築様式もモデルにしていると言われています。

政治体制は「東」の息苦しさ。しかし、文化的背景や建築の美意識は「西」や「伝統的なヨーロッパ」の豊かさを感じさせる。

首都バーリント一つとっても、「ドイツ」の政治的リアリティと、読者の目を引く「ヨーロッパ的な美しさ」が融合されている。このあたりにも、本作のハイブリッドな世界観構築の巧みさが表れていますよね。

ロイドの任務「オペレーション〈梟〉」が、この首都バーリントという「敵地の中枢」で行われていること。それ自体が、フォージャー家のコメディの裏で、常に張り詰めた緊張感が流れ続けている理由なんだと、私は思います。

SSSはシュタージがモデル

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オスタニアが東ドイツモデルであることの、最も強力な証拠がこれかもしれません。

ヨルさんの弟、ユーリ・ブライアが所属する「SSS(国家保安局 / State Security Service)」。この組織は、東ドイツに実在した秘密警察(国内治安機関)である「シュタージ(Stasi)」がモデルとされています。

シュタージは、反体制的な思想を持つ国民を徹底的に監視・弾圧し、その監視網は国内の隅々にまで張り巡らされていたと言われます。国民同士の密告も利用し、まさに恐怖政治の象徴でした。

ユーリが従事している「スパイ狩り」や市民の取り締まりは、このシュタージの任務そのもの。彼が普段見せる姉想いの(ちょっとシスコンな)顔と、SSSとしての冷徹な顔のギャップは、「平凡な個人」が「国家という巨大な装置」に組み込まれていく恐ろしさも表しているのかもしれない、なんて深読みもしてしまいます。

東ドイツを象徴するアイテム

作中の小道具にも、東ドイツを思わせるものが登場します。

  • トラバント: コミックス3巻の中扉絵などでフォージャー家が乗っている小型車。これは東ドイツを代表する大衆車「トラバント」がモデルとされています。

  • 汎ヨーロッパ・ピクニック: 単行本7巻で「ピクニック」と称して第三国経由で西側へ亡命する人々の話が出ます。これは、ベルリンの壁崩壊のきっかけの一つとなった、1989年の歴史的事件「汎ヨーロッパ・ピクニック」がモチーフだと思われます。

こうした細部へのこだわりが、世界観のリアリティを支えているんですね。

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スパイファミリーの舞台、国の詳細な背景

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国のモデルが「東西ドイツ」であることは、前のセクションでだいぶクリアになりましたよね。ロイドの任務の緊張感や、ヨルさんが抱える社会的なプレッシャーの背景が、冷戦下の東ドイツにあると考えると、物語の解像度がグッと上がります。

でも、それだけでは説明がつかない要素も多くないですか?

例えば、アーニャが通う「イーデン校」。あの荘厳な雰囲気やエリート主義は、ドイツというよりは別の国を強く感じさせます。

このセクションでは、その「国の詳細な背景」として、政治体制とは別の「文化的モデル」や、物語が設定された具体的な「時代」、さらにはフォージャー家を彩る「家具」に至るまで、もう一歩深く踏み込んでみたいと思います。

時代背景は1960年代から70年代

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『SPY×FAMILY』の具体的な時代設定は、明言こそされていないものの、作中のあらゆる小道具や文化から「1960年代から70年代」とされています。ここは、この物語のリアリティラインを決定づける、非常に重要なポイントだと私は思います。

なぜなら、この時代はまさに米ソ両陣営が水面下で熾烈な情報戦を繰り広げた「冷戦(Cold War)」の最盛期だからです。

世界が核戦争の恐怖に怯え、「熱戦」の代わりに「情報戦」が国家の命運を握っていた時代。ロイド(黄昏)のようなスパイが暗躍し、いつ東西の均衡が崩れて戦争が再発してもおかしくない…そうしたピリピリとした“薄氷の上の平和”こそが、この時代の空気感そのものなんですね。

アナログな時代だからこそ「家族」が必要だった

そして、もう一つ。この時代設定が brilliant だと感じるのは、これが「アナログな時代」であるという点です。

当然ですが、1960年代にはインターネットも、監視カメラ網も、高性能な盗聴器も(今ほどは)ありません。ロイドの諜報活動は、変装、潜入、読唇術、そして何より「人間関係の構築」といった、極めてアナログなスキルに依存しています。

もしこれが現代だったら、ロイドはデズモンドの情報をハッキングで盗み、オペレーション〈梟〉は数日で完了していたかもしれません。でも、この時代だからこそ、標的の息子が通う学校の懇親会に潜り込むために、「家族(アーニャとヨル)」というアナログな鍵がどうしても必要になるんです。

この時代設定は、「スパイ」という非日常的な存在が「家族」という日常を演じざるを得ない、という物語の根幹を、技術的な側面からも完璧に補強しているんですね。

シリアスとノスタルジーの同居

この時代設定は、政治的な背景(シリアス)だけに留まりません。

同時に、この時代は「ミッドセンチュリー」と呼ばれる、デザインやカルチャーが花開いた、視覚的にも非常に魅力的な時代です。後述するインテリアや、キャラクターたちのクラシックでおしゃれなファッションは、この時代ならではのもの。

「いつ戦争が起きるかわからない」という政治的な緊張感と、「戦後の復興を経て、生活や文化が豊かになっていく」というノスタルジックな空気感。このシリアスとオシャレの絶妙なギャップこそが、『SPY×FAMILY』の独特な魅力の源泉になっているんだと思います。

イーデン校のモデルはイギリスの学校

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さて、オスタニアの政治体制や息苦しい社会が「冷戦下のドイツ」をモデルにしているなら、物語のもう一つの超重要な舞台、アーニャが通う名門「イーデン校(Eden Academy)」はどこがモデルなのでしょうか。

これはもう、作中の雰囲気からビシビシ伝わってきますよね。そう、「イギリス」です。

具体的には、イギリスに実在する世界最高峰のパブリックスクール「イートン校(Eton College)」が有力なモデルとされています。イートン校といえば、1440年に創立され、歴代のイギリス首相や王族を数多く輩出してきた、まさに「エリート中のエリート」を育成する男子全寮制の学校です。

『SPY×FAMILY』の舞台設定が巧みなのは、この「イギリスの階級社会の象徴」を、「東ドイツ」という監視社会の真っ只中に置いたことだと私は思います。

「皇帝の学徒」と「王の奨学生」

最もわかりやすい共通点が、イーデン校の特待生制度です。

アーニャが目指す(?)、「星(ステラ)」を8つ集めた優等生「皇帝の学徒(インペリアル・スカラー)」。これは、イートン校に実在する特待生制度「王の奨学生(King’s Scholarship)」と強く結びつきます。

「王の奨学生」は、極めて優秀な生徒にのみ与えられる称号であり、特別なガウンを着用することが許されるなど、校内でも明確に区別されます。イーデン校で「皇帝の学徒」だけが着用できる特別な制服や、彼らがいかに尊敬(あるいは畏怖)の対象として描かれているかを見ると、この設定を色濃く反映しているのは明らかですよね。

伝統と「品格(エレガンス)」を問う文化

イーデン校の入学試験を思い出してみてください。筆記試験だけでなく、面接では両親の「品格(エレガンス)」が厳しく問われました。ロイドとヨルが必死に取り繕った、あの異様な雰囲気です。

これは、単なる学力だけでなく、その家庭の「家柄」や「振る舞い」(=階級)を非常に重視する、イギリスの伝統的なパブリックスクール文化そのものです。どれだけ優秀でも、その「文化」にふさわしくないと見なされれば、容赦無く切り捨てられる。西国最高のスパイであるロイドでさえ、この「階級の壁」には苦戦を強いられました。

建築様式が語る「権威」

イーデン校の、あの荘厳で歴史を感じさせるゴシック建築の校舎。あれはイートン校や、ケンブリッジ、オックスフォードといったイギリスの伝統的な学術都市の建築様式(ゴシック・リヴァイヴァル建築)を強く反映しています。

あの建築が持つ意味は、単に「オシャレ」ということではありません。それは「権威」と「歴史」の象徴です。あの場所に足を踏み入れた瞬間に、生徒も保護者も「自分たちは特別な場所にいる」と刷り込まれる、強力な視覚的装置なんですね。

このように、イーデン校は「イギリス」の階級社会とエリート教育の象徴として描かれています。だからこそ、オスタニアの政治的実力者であるドノバン・デズモンドは、その権力を絶対的なものにするために、息子たちをこの学校に通わせている…そう考えると、この学園がオペレーション〈梟〉の最重要地点である理由が、より深く理解できる気がします。

なぜドイツとイギリスを融合したのか

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ここで、冒頭でお話しした「ハイブリッドモデル」の話に、もう一度戻ってきます。オスタニアの息苦しい政治体制(ドイツ)と、イーデン校の厳格なエリート教育(イギリス)。なぜ、作者はあえてこの二つを組み合わせたのでしょうか。

これが、この物語の核心的な「発明」だと私は思っています。これは単なる舞台背景の“いいとこ取り”ではありません。この融合こそが、『SPY×FAMILY』という物語を駆動させるための、最も重要な「エンジン」なんです。

この設定によって、主人公ロイドの前には、性質がまったく異なる「二種類の壁」が同時に立ちはだかることになります。

立ちはだかる二重の障壁

  1. 国家(政治)の壁
    これは「東西ドイツ」モデルが担う、文字通りの“分断”です。スパイ合戦、秘密警察SSSの監視、いつ再発するかわからない戦争の危機。これはロイド(黄昏)がプロとして挑む、国家存亡の壁です。

  2. 社会(階級)の壁
    これが「イギリス」モデル、すなわちイーデン校が担う“選民意識”の壁です。学力だけでなく「品格(エレガンス)」や「家柄」が問われる、伝統と格式で固められたエリート社会。これはロイドが素人として挑む、文化的な壁です。

ここからが、この設定の本当に“巧み”なところです。

西国一のスパイであるロイド・フォージャーは、「政治の壁」を越えることに関しては天才です。変装も潜入も戦闘も、彼にとっては日常。しかし、そんな彼が「社会の壁」の前ではどうでしょうか?

彼は「品格」や「上流階級の常識」なんて知りません。だから入学面接でボロが出そうになる。つまり、ロイドは「政治の壁」を越えるプロですが、「階級の壁」を越える術は持っていないんです。

ロイドの最終標的であるドノバン・デズモンドは、この「階級の壁」(イーデン校の懇親会)の向こう側に隠れています。政治の壁のプロであるロイドを、彼が最も苦手とする「土俵」に引きずり出すための、完璧な舞台装置なんですね。

だからこそ、この「二重の壁」を越える唯一の鍵として、「家族」(=イーデン校の生徒となるアーニャと、その母親役のヨル)が必要になる。スパイが「家族」を演じなければならないという、本作最大のアイロニーとドラマは、この「ドイツ×イギリス」というハイブリッドな世界観によって、必然として生み出されているんです。

家具でわかるミッドセンチュリーの時代

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オスタニアの政治体制(ドイツ)やイーデン校の文化(イギリス)が物語の「骨格」だとすれば、フォージャー家が暮らすあの家の「インテリア」は、作品の“空気感”そのものを決定づけている重要な要素だと私は思います。

あのリビングルーム、本当にオシャレですよね。ロイドが新聞を読むソファ、アーニャがアニメを見るラウンジチェア。これらはすべて、「ミッドセンチュリーモダン」と呼ばれるデザイン様式の家具で、意図的に統一されています。

ミッドセンチュリーモダンとは、その名の通り20世紀半ば—まさに1940年代半ばから1960年代(=本作の時代設定と完全に一致)にかけて世界的に流行したデザインスタイルです。第二次世界大戦後の新しい技術(成形合板やプラスチックなど)を使い、過度な装飾を排した「機能的」でありながら、どこか温かみのある「有機的な曲線」を持つのが特徴ですね。

これは、ロイドが演じる「時代の先端を行く優秀な精神科医」という“設定”にも完璧にマッチしています。古臭い重厚な家具ではなく、知的でモダンな最新のデザインを選ぶ。彼の「偽装」は、こういう細部にまで徹底されているんです。

「偽り」と「本物」の強烈な対比

そして、ここからが私の最も心を揺さぶられたポイントです。

ロイドも、ヨルも、アーニャも、ボンドも。全員が「偽り」のプロフィールを持ち、「ウソ」で塗り固めた関係性を演じています。彼らの家族という形は、すべて「かりそめ」のものです。

しかし、そんな「偽りの家族」が暮らす「ハコ(家)」と、その中身(家具)は、「ミッドセンチュリーモダン」という、歴史的に「本物」のスタイルで完璧に統一されている。

この「ウソ(人物)」と「ホンモノ(舞台装置)」の強烈な対比。これが、物語に圧倒的なリアリティを与えているんだと思います。

スパイ、殺し屋、超能力者という、あまりにも突飛な「ウソ」が許容できてしまうのは、彼らが生きる世界の“背景”が、歴史考証という「ホンモノ」でガチガチに固められているから。この堅牢な「本物の時代」という土台があるからこそ、私たちはフォージャー家という「脆い偽物」の日常を、ハラハラしながらも安心して見守ることができる。そう思うんです。

総括:スパイファミリーの舞台と国

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ここまで『SPY×FAMILY』の舞台と国について分析してきました。結論として、この問いへの最も正確な答えは、「冷戦時代のドイツの政治体制と、イギリスの社会文化を基盤に構築された、ハイブリッドな架空国家」と言えるんじゃないかなと思います。

「スパイファミリーの舞台となっている国」は、単なる背景美術ではありません。それは、キャラクターたちを動かし、彼らに「家族」という仮面を被らせる、物語そのものの「エンジン」です。

国家の分断というシリアスな「壁」と、階級社会という「壁」。

その二重の壁を越えるために集められた、ロイド、ヨル、アーニャ、ボンド。彼らが「偽り」から始めた関係性の中で、徐々に「本物」の感情を見つけていく…その過程がたまらなく愛おしいですよね。

この重層的な舞台設定こそが、あの“仮初めの家族”のドラマを、切なくも温かく輝かせている最大の要因なんじゃないかなと、私は思います。

ライターコラム

いつもはキャラクターの感情やセリフの裏側を追うことが多いんですが、今回「舞台」と「国」という“ハコ”に注目してみて……改めて気づかされました。 フォージャー家が生きるあの世界は、私たちが思っている以上に「本物」の息苦しさで満ちているんですね。

彼らが直面している「東西の壁」や「SSSの監視」って、フィクションの設定であると同時に、かつて現実の人々が体験した「本物の痛み」や「本物の恐怖」そのものなんです。

そんな、歴史という“どうしようもない本物”の上で、彼らは「偽り」の家族を必死に演じている。

この記事を書きながら、ヨルさんが「独身だとスパイと疑われる」と焦る、あの社会の空気を想像してしまって。 もし、あの息苦しさの中で、ロイドという「ウソ」の逃げ場さえなかったら? もし、アーニャが「ウソ」の父親と母親の心を読んで、あの小さな胸で全部受け止めていたら?

そう考えると、もう……。

でも、だからこそ愛おしいんだと思うんです。 世界が「本物」の厳しさで彼らを追い詰めるからこそ、あの「偽り」の家で灯る、食卓の小さな明かりがどうしようもなく温かい。

ロイドもヨルも、あの“かりそめの日常”に救われている。 スパイとしてでもなく、殺し屋としてでもなく、ただ「ちち」と「はは」として、アーニャの「本物」の笑顔に触れる瞬間にだけ、息ができている。

私たちは、彼らの「ウソ」を全部知っている“共犯者”です。 だからこそ、彼らが「ウソ」で守ろうとしているあの温かさが、「いつか本物になりますように」と願う気持ちが、もう止められないんですよね。

……ダメだ、また1話から全部見返したくなってきました。 彼らの「ウソ」が、どれだけ尊い「本物」を育てているか、もう一度確かめにいかないと。

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